ZEHは光熱費削減や環境配慮というイメージが先行しがちだが、その最大のメリットは高断熱で病気にならないための健康で快適な住空間であるということ。本頁では温熱環境に携わる権威たちがこれまで蓄積してきたエビデンスをもとに健康のポテンシャルを紐解く。
高断熱が生み出す2大メリット省エネと健康
〈ZEH=健康な住宅〉という概念を考察する前に、まずはZEHの外皮性能水準をみていく。図表は住宅における主な省エネ関連の基準をまとめたものだが、ZEHは2020年義務化の省エネ基準(平成28年基準)や、長期優良住宅、認定低炭素住宅等よりも高水準に位置している。この外皮性能の高さから得られるのがエナジー・ベネフィット(EB)とノン・エナジー・ベネフィット(NEB)だ。前者は高断熱化することで無駄な熱損失をなくし、暖冷房等のエネルギー消費量を抑える「省エネ効果」のこと。後者は、高断熱化によって室内の温熱環境が良くなり、健康性や快適性が向上するなど省エネ以外の効果を指す。本項ではNEBを中心に掘り下げていくが高断熱化によるEBのポテンシャルも無視できない。高断熱を推進する民間団体HEAT20(坂本雄三委員長)の試算によれば、ZEHの外皮性能とほぼ同等となるG1グレード、G2グレードの外皮性能にすることで、年間の冷暖房エネルギー消費量を平成28年基準相当より20〜30%削減するとしている。もちろん、断熱工事のイニシャルコストは増加するが、長期スパンのライフサイクルコストでみると、年間の暖冷房費が低いため最終的には高いコストパフォーマンスを実現することが明らかとなってきている。ZEHレベルの断熱仕様にすれば間違いなくおトクなのだ。さて、外皮性能が高いことで得られるもう一つのベネフィット(NEB)について深掘りしていこう。施主が判りやすい高断熱の訴求ポイントは「熱が逃げにくいためエアコンが効きやすくなる」「結露やカビになりにくい」といった内容が挙げられるが、より重要な点は、死亡リスクの低下、健康増進が図られるということ。一般論よりも科学的な視点も頭に入れた上で提案に臨めば説得力がグッと増してくる。
国土交通省調査で明らかに冬の死亡者、ZEHが救う!?
国土交通省の調査によれば、断熱住宅普及地域と冬期死亡増加率は相関関係にあることがわかっている。冬季における死因の6割は心疾患や脳血管疾患などの循環器疾患であるといわれているが、温暖な地域ほど冬季死亡増加率が高く、寒冷地ほど低い傾向にある。トップの栃木県が25%でワーストの北海道が10%と、15ポイントもの差が出ている。要因として寒冷地では断熱性能の高い住宅が普及しているのに対し、温暖地では不十分であることが指摘されている。残念なことに日本では冬季の死亡増加率と温熱環境の相関性は一般認識さていない。欧州では早くから、温暖な国ほど冬季の死亡増加率が高く、死亡要因の殆どが心筋梗塞や脳卒中だという事実が常識となっている。そのためイギリス保健省では、冬の健康を維持する室温指針を制定。「全室18℃までを最低推奨室温とし、16℃未満を健康リスクのある室温、12〜9℃を血圧上昇、心臓血管疾患のリスク、5℃以下では低体温症を起こすハイリスクがある室温」と設定している。基準を満たさない家は断熱改修や解体命令のケースがあるなど取締まりが強化されている程なのである。如何に高断熱が健康な生活を実現する上で重要視されているかがお分かり戴けるだろう。
血圧改善、ヒートショックリスクも低減
冬季における死因の6割を循環器疾患が占めることを先述したが、同疾患を発症させる主な要因の一つは〝高血圧〟とされ、最高血圧が高い人ほど発症率が高い。この血圧と住宅の断熱性能(室温)は密接な関わりを持っている。国交省のスマートウェルネス住宅等推進事業では14〜17年度の4年間、全国1,800軒3,600人に対し、断熱改修(平成4年基準以上の断熱改修)前後の血圧を調査。ここでは、図表のとおり、冬季の起床時温室が10℃低くなると、血圧が平均7.3mmHg高くなることが明らかとなった。また、年齢が上がるほど血圧の上昇量は大きく、60代以上では10mmHg前後の上昇と影響が大きいことも確認された。血圧10mmHgの上昇というと、脳卒中のリスクが男性で約20%、女性で約15%高くなり、心筋梗塞や狭心症のリスクが男性で約15%高くなる上昇率である。換言するならば、高齢者が住宅の断熱性能が低い寒い家に住むと、血圧を上昇させ、ひいては循環器疾患の発症リスクを高めることになるのだ。一方、断熱改修後に室温上昇量が大きいほど最高血圧が抑えられ血圧改善効果も確認されている。4℃以上室温が上がった居住者はおよそ4mmHg血圧が低下する傾向にあった。これがどれほどのインパクトかといえば、厚生労働省の推計では最高血圧平均値を4mmHg低下させると循環器疾患の死亡者数が年間1.5万人減少するとしている。正に命を救う断熱化なのである。では、ZEH相当の断熱水準の場合は、どれくらい血圧を下げる効果があるのか。一例ではあるが、慶応義塾大学伊香賀研究室の臨床実験によると、70代男性に殆どの場所が17℃に保たれたZEH相当のモデル住宅に宿泊してもらい血圧低下を測定した結果、平成4年基準相当の生活と比べ、最高血圧が6mmHg低下、起床時の最高血圧が32mmHgもの低下を示すデータが複数得られている。ZEHが最高血圧を下げる証左と言えそうだ。ただ、留意したいのは、単に高血圧だからといって循環器疾患を患うわけではないということ。引き金がある。その一つが室内の寒暖差によって血圧が急激に変動し、血管や心臓にダメージを与えるヒートショックである。日本の一般住宅ではリビングなどの暖房室と、浴室、トイレ、洗面所といった非暖房室との温度差が6〜10℃あるといわれる。多くの居住者が寒暖差のある宅内を移動し、常にヒートショックのリスクを負いながら生活しているのである。特に、入浴中の事故は交通事故の3倍以上の約1.7万人といわれ、その殆どがヒートショックを起因としている。無論、こうした寒暖差によるリスクを抑えるためには、家全体を暖かくすればよい。では、どれ程の断熱が必要になるのか。国交省ではヒートショック対策として、暖房居室と非暖房居室の温度差は5℃以内であることを推奨しているが、ここでもHEAT20の資料を参考にすると「ZEH外皮レベルになると暖房室と非暖房室の寒暖差は5℃前後以下となり、また、暖房停止後の温度低下も5℃程度に抑えることができる」としている。つまり、ZEHは国交省が推奨するそれにほぼ近似する。室内の温度ムラをなくし、血圧改善、ヒートショックリスクを低減する実力がZEHにはあるのだ。
ZEHで健康改善効果の期待大病の機会を減らし、医療費、介護費等も軽減
病は寒さから、健康はZEHからとでも言えようか。先のイギリス保健省だけでなく世界保健機関WHOでは既に09年時点の報告書で家庭内の寒さが居住者の健康に影響を及ぼすことを指摘している。世界的には住環境と健康の関連性はスタンダードに認識されているのだ。こう考えると日本は断熱後進国と言っても良いだろう。とはいえ、早くから、住宅断熱性能と健康の関係を研究する近畿大学の岩前篤教授らが実施した全国2万人調査は、断熱業界におけるデファクトスタンダードとして定着してきた。調査では平成4年基準相当、平成28年基準相当、北海道の平成28年基準相当の3種類に区分けし、断熱性能が高い住宅へ転居した後、各種症状がどれほど改善したかが示されている。岩前教授は「ZEHやHEAT20 G1の高断熱住宅は、同調査における北海道の平成28年基準相当にあたる」とし、図表のとおり断熱性能が向上することに比例して健康状態が改善することを指摘。手足の冷えの改善は当然のことながら、アレルギー性鼻炎や結膜炎、アトピー性皮膚炎、気管支喘息やのどの痛みなどの症状も緩和されるとする。「肺が低温空気を吸い込むことで起きていた咳や喉の痛みが改善し、また、家が暖かくなったことで着衣量が減り、直接的な皮膚へのストレスを軽減させたと推測できる」という。さらには、断熱性能が高いほどその差は大きく、平成28年基準相当からZEH相当の高断熱住宅に移住したときの健康改善率の方が、平成4年基準相当から平成28年基準相当の住宅に移住したときよりも3倍程度高くなっている。ZEHは健康改善効果が大きいということがわかるだろう。「高断熱であること以外の要素も相まって総合的に健康改善がもたらされているだろうが、住宅の断熱性能が居住者の健康状態と相関関係にあることは明らかな事実」『月刊スマートハウス(No. 31)』なのである。今後のさらなる調査研究に注目が集まる。以上、高断熱化のメリットとして血圧改善、循環器疾患をはじめ、さまざまな疾病にかかる機会を減らせることがお分りいただけたことだろう。病気にかかる機会を減らせば、医療費、介護費などを軽減できるわけだが、最後にこれらを金額換算したデータもあるので紹介したい。伊香賀研究室の推計によると年間2万7000円ほどの疾病予防便益が生まれるとしている。加えて、断熱工事の投資回収年数に関するケーススタディでは断熱工事にかけた100万円は光熱費削減効果(EBのみ)により29年で回収可能とし、これに先述の疾病予防による便益を加味すると16年に短縮。医療費の削減は健康保険などの公的負担の削減にもつながり、ひいては自らの負担減少となるが、同便益も加えるとさらに短い11年で回収可能であるという。伊香賀教授は「ケーススタディでは無断熱から平成28年基準相当の断熱強化を想定したもの。ZEHレベルだと、さらにイニシャルコストは増えるものの、EBの効果が高いので、より短期間で回収できる」『月刊スマートハウス(No.31)』と話していた。まだある。これに介護予防の便益も含まれるとどうなるか。図には寒い住宅と暖かい住宅に住む居住者に分け、要介護状態になった年齢の割合を示している。半数が要介護者となった時の年齢をみると、実に4歳の健康寿命の差が生じていることが判る。一般的に要介護の世帯にかかる費用は年間80万円。4年間で320万円を節約できるわけだ。このほか、断熱が高いことで活動量が増える、夜間の頻尿回数が減る、足元の室温が3℃暖かいと脳神経繊維が6歳若いといった関連性も見え始めている。ZEHの普及は、省エネや省CO2の実現と同時に、健康な住宅を普及させるプロジェクトでもある。今でこそ、エネルギービジネス色の強いZEHだが、これからはエネルギーと健康の2大提案がスタンダードになるはず。さあ〝本当の〟ZEHビルダーになるためにも、健康メリットの提案にチャレンジしてみてはいかがだろうか。
※本記事は月刊スマートハウス別冊 『ZEH MASTER 2018』 に掲載したものより抜粋しています。
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