日本の住宅太陽光発電市場は中古EVによって自動車業界とともにターニングポイントを迎える——。これまで本誌では、太陽光余剰電力の売電期間終了世帯が先5年間で165万件現れる「卒FIT市場」のキックオフを前に、各電力会社の売電価格事情をはじめ、卒FIT後の余剰電力の受け皿として有望視される定置用蓄電池やヒートポンプ式給湯機の最新動向を連載してきた。そして、遂に市場開幕まで秒読みとなった今。連載最終回となる本特集では、卒FIT向けソリューション“第三の矢”ともいえる「EVとV2Hシステム」の実力に迫った。
日の丸EV『日産リーフ』累計10万台超え
EVはクルマとしての機能だけでなく大容量の電力バッファとしての機能を持ち合わせている。そのため太陽光発電との相性が良く、同時に所有することで太陽光発電の余剰電力をEVに充電して走らせることができ、燃料費やCO2排出を大幅に抑えられるといったメリットを享受できる。さらにEVから住宅に給電するV2Hシステムの登場によってEVを“蓄電池代わり”として活用できるようになり、卒FIT後に求められる太陽光発電の自家消費率を高めることは勿論、昨今の大規模災害において長期停電を乗り切るなど停電対策としての注目も集まっている。こうした“蓄電ができる”という特長から再エネ業界も住宅業界もEVに対して熱視線を注いでいることは言うまでもない。一方の自動車業界では100年に1度の大変革期を迎えており、その理由のひとつが「電動化」、つまりガソリン車からEVへのシフトと言われ、各自動車メーカーとも鎬を削っている。国産EVの代名詞と言えば何といっても『日産リーフ』であるが、周知のとおり日産自動車はEV化に逸早く着手。2010年に24kWhバッテリーを搭載した初代リーフを発売して以来、車載電池の研究開発を進め、30kWh、40kWh、62kWhと次々に大容量化に成功、今や通勤から週末の遠出のレジャーまでガソリン車並みに航続距離を伸ばしてきた。そんな『日産リーフ』の国内普及状況について、同社日本EV事業部の河田亮主任は「2018年4月に累計販売10万台を突破し、19年5月時点で同13.5万台規模に達した」と、着実にEV市場は拡大している。現在のラインナップは、17年発売の『日産リーフ』(40kWh)と19年発売の『日産リーフe+』(62kWh)であるが「直近の販売比率は『e+』が約4割まで拡大。航続距離の不安が殆ど無い大容量バッテリータイプへ徐々にシフトしている状況」(河田主任)と話す。今後、同社では20年を目途に新型EVを2種追加するほか、トヨタ自動車やホンダもいよいよEVへの取組みを本格化しており、EV車種の一挙拡充が期待される。また、航続距離とともに不安視されていた充電インフラにおいても、普通充電器と急速充電器合わせて全国約3万基が設置されガソリンスタンド数とほぼ同等まで増加。EV普及の舞台は整いつつあると言えよう。
リセールバリューの向上がEV普及の鍵
しかしながら、現状530万台/年を超す巨大な新車販売市場からするとEVはまだまだマイナーな存在と言わざるを得ない。燃料費削減やCO2排出低減、災害対策、太陽光発電の有効利用ができるなど良いことづくしで、充電インフラも充実しはじめ、行政としてもEVシフトへの対応方針を掲げているにもかかわらず、伸び悩む理由は何か。多くの見解があるが、一つはEVの車両価格がまだガソリン車に対抗できないことが挙げられる。現在『日産リーフ』の新車価格は、バッテリー容量40kWhでのエントリーモデルで324万円、同60kWhで416万円。国や自治体の導入補助金をいくらか充てたとしても依然として高価である。「購入者の多くは年齢40代以上のやや高所得者で、環境意識が高いアーリーアダプターの方々に集中している」(河田主任)ということからも、広く一般化したクルマと言い切れないのが実情である。そしてもう一つ伸び悩むポイントがEVのリセールバリューの低さである。リセールバリューとは再販(リセール)する際、どれくらいの価値(バリュー)があるかを表す自動車業界用語。すなわち売却価格・下取価格のことであり、クルマ選びでは車体価格や車検費用、ランニングコストだけでなくリセールバリューも大切な要素となっている。ただ、何故クルマを買う際にリセールバリューを考えなければならないのか。中古車買取・販売の最大手で、“ガリバー”の愛称で親しまれるIDOMのMDチーム 伊能和憲プライシングセクションSVは「クルマを途中で手放すことになった場合、リセールバリューが高いほど高く売却・下取でき、クルマに乗るための実質コストが抑えられるため」と説明する。表のとおり、同じ購入価格でもリセールバリューが高い方がお得な選択となり、購入に繋がりやすくなるのだ。乗りつぶすユーザーであればあまり関係ないかもしれないが、とりわけ「ライフステージによってクルマの使い方が変わる」「転勤する可能性がある」といったユーザーであれば重要視されるのは明らかだ。このリセールバリューは、おおよそ車種の人気具合や走行距離などによって左右されるが、その中でEVのリセールバリューが低い要因の一つとして、日産自動車日本営業本部リマーケティング部の渋田聡子主任は「やはり車載バッテリーの劣化具合や、それに伴う航続可能距離の不安を挙げられる」と述べている。今でこそ『日産リーフe+』(62kWh)の登場によって、航続距離の懸念はほぼ解消しているとは言うものの、一度根付いたイメージはなかなか拭い切れない。事実、流通している中古EVの本体価格を見ても、新車時300万円以上していたものが、高年式でも150万円など半額程度での販売価格となり、5年落ちとなれば100万円を切るものや、初代リーフに至っては50万円以下で販売しているものさえある。無論、売却・下取はそれよりも低い。如何にリセールバリューが低いかが窺える。これが直接、新車に大きな影響を与えているのだ。「一般的に新車の販売を伸ばす手法として、中古車としての価値を高めることは定石である。中古EVに人気が出て売れるようになれば、本当の意味でのEVの主流化が来る」(渋田主任)とするように、如何に中古EVの価値を上げていくかがEV全体の普及のカギを握るといってもよい。
卒FITユーザーによる“走る蓄電池”の刷り込み
では、どのようにして価値を高めていけばよいのか。今、リセールバリューが低いとされているのはEVを“クルマ”としてだけ見ている、もしくは“クルマ”としての機能しか知らないユーザーが多いからである。もうひとつの特長である“蓄電池”として活用できる点が浸透さえすれば、たとえバッテリー性能が多少劣化し航続距離が落ちた中古EVだとしても、自ずと高く評価されることが期待できる。クルマだけでなく蓄電池としての価値を世間に馴染ませることがリセールバリューを高める近道になり得るのだ。そして、この役割を担うのが卒FITユーザーではないかと考えられている。EVをV2Hと組み合わせて蓄電池として重宝する卒FITユーザーの行動が、一般ユーザーが持つクルマだけのイメージを一転させる。そうすることでEVの蓄電池としての価値が広まり、リセールバリューが高まっていく。リセールバリューが高まれば、新車EVの購入意欲が増し量産によるコストダウン等も進み、ひいてはEV全体の普及に繋がる好循環が生まれることが予想されるわけだ。卒FIT市場に関しては幾度となく詳報してきたが、2019年度だけで53万件の売電期間終了世帯が発生し、以降20万件以上、23年には累計165万件となる市場である。周知のとおり、過去10年間売電してきた太陽光発電の余剰電力を如何に有効利用していくかが問われ、大幅に下落した単価で売電を継続するか、自家消費をするかの選択が迫られる。売電を継続する場合は契約を結びなおす必要があるが、自家消費する場合は定置用蓄電池やヒートポンプ式給湯機を活用すること以外に今回のEVとV2Hを導入する方法がある。後述で説明するが、最も自家消費率を向上させるものとしてEVとV2Hが期待されている。ただ、本体価格300~400万円する新車EVと同40~170万円するV2Hを同時購入できるのは限られた層のみとなるだろう。19年度に現れる53万件の属性が、いくらアーリーアダプターや環境重視の高所得者と言えども購入を思いとどまるのではないだろうか。20年度以降の経済メリット重視で太陽光発電を導入したユーザーなら猶更だろう。ところが、圧倒的コスパの中古EVを選択すれば、購入層のすそ野が広がることは言うまでもない。ちょうどリセールバリューが低く破格の値段で購入できる中古EVは、同市場においてはかえって好都合なのである。例えば24kWhから16kWhにバッテリー性能が劣化した中古『日産リーフ』があるとして、50万円以下で購入できるとすれば、蓄電池換算では3万円/kWh以下で手に入ることになる。中には殆ど劣化なしの24kWhの状態のまま流通するものもある。20万円/kWh前後の定置用蓄電池と比べるとインパクトの大きさがわかるだろう。またコスパという点では、ガソリン車からEVへの乗り換えによる燃料費削減も非常に大きく、卒FIT電力を活用すればメリットは一層拡がる。右図のとおり一般的なガソリン車の燃費は12km/Lほどで、ガソリン代は150円台/L(2019年5月時点)、つまり12kmを150円で走行する。一方、初代『日産リーフ』(24kWh)の場合だと、電(燃)費は平均約7km/kWhほどで、燃料となる電気料金は東京電力で30円/kWh、再エネ賦課金を加えて約33円となり、ガソリン車と同じ12kmを57円で走行する試算ができる。更に卒FIT電力となれば、たったの15円で走らせることができるわけだ。加えて、車検もガソリン車と同じ頻度で検査項目には「電池容量の劣化」といったチェックはないため、極論、容量ゼロになるまで利用できる。日産系の中古車販売店では「16年頃から中古リーフが出始め、年間4,000台規模が販売され、今年は5,000台を見込む」(渋田主任)という。IDOMにおいては「年間2,000台の中古EVを扱っている。当社全体の取扱い中古車の0.4%程度にあたり、本格的な取扱いはこれからになるが、年々査定件数は上昇している」(伊能プライシングセクションSV)とする。少なくとも年間7,000台以上の中古EVが流通していることになるが、仮に卒FITユーザーが挙って求めることになれば争奪戦は必至である。余りまくるEV電池、だからこそV2H卒FIT市場向けに期待が寄せられる中古EVであるが、ここで「太陽光の余剰電力を自家消費する時、EVだけで十分ではないのか」「V2Hまで必要なのか」といった意見がある。結論から述べるならば、EVだけでも自家消費できるが、V2Hが無ければ十分に効果を発揮できないことが明らかになっている。セカンドカーとして街乗り利用が多いEVだが、1日の走行距離はというと20km程度で電力に換算すると約3kWhしか消費していない。積水化学工業の実邸調査でもEVの走行だけに使う電力はたったの2割程度だったという結果もある。すなわち、毎日バッテリー残容量が余りすぎて、太陽光発電の余剰電力を充電するための領域が殆どない状態なのである。だからV2Hを利用して、余りすぎているEVの電力を自宅へ放電し、太陽光発電の充電可能領域を増やしてあげる、空き容量を確保してあげるわけだ。太陽光発電の自家消費を高める上で欠かせない機器なのである。加えて「EVが自宅に駐車していない時、充放電ができない」と懸念する声もあるが、同課題についてはV2Hメーカーの三菱電機がシミュレーションによる評価を行った。結果として、同社HEMS開発センター計画グループの大澤理弘専任は「EV不在時があったとしても有効的に機能を発揮し、自給率、自家消費率とも十分に高められることを証明できた」としている。シミュレーションでは、自給率=エネルギー消費量をどれだけ太陽光の発電量で賄えるか、自家消費率=太陽光の発電量をどれだけ自家消費できるか、と定義。都市近郊と地方の2つのEV走行パターンをモデル化し、都市近郊はEV 1台で主な利用目的を「平日買い物+休日ドライブ」、地方はセカンド__カーとして主な利用目的を「平日買い物のみ」と想定した。この上で、太陽光発電3~9kWの搭載を前提に、V2H有無の比較などを行った。上表に示す通り、V2HはEV不在時を加味しても太陽光発電の容量に比例して自給率、自家消費率とも大幅に向上することがわかったのである。同社京都製作所スマートエネルギー製造部の田嶌大介技術第一グループ専任は「もちろん、EVとV2Hに少容量の定置用蓄電池のフルラインナップがあれば、EV不在時の電力を定置用蓄電池に充電できるため最適ではあるが、コストメリットが見合わなくなる可能性がある。V2Hを導入するだけで十分に賄うことができる」とし、続けて、同部の園江洋技術第2グループマネージャーは「例えば、余剰電力の一時預かりサービスを活用すれば、EV不在時のための蓄電池を設置しなくても済むだろう。そういったサービスと上手く組み合わせて考えることもできる」と考察した。
主要3メーカー、累計7,000台強
このようにEVはV2Hと組み合わせてはじめて蓄電池としての効果を最大限発揮するわけだが、現在のV2H市場規模を推計すると、EVの普及状況に左右されるためか、累計7,000台強とまだまだこれからといったところである。ニチコン、三菱電機、東光高岳の主要3メーカーがあり、カーディーラー、ハウスメーカー、太陽光パネルメーカー、エネマネ商社、電材商社などが主なルートである。一部、販売施工会社への直販もある。各社製品をみると、2012年にはじめてV2Hを開発したニチコンは昨年製品を一新し、このほど出荷開始した。カーディーラールートがメインだが、ハウス系や商社の取扱いも広がっているという。製品は価格を抑えたスタンダードモデルと、機能性の高いプレミアムモデルの2つをラインナップし、通常時の出力はいずれも最大6kW未満であるが、停電時にプレミアムは6kVA出力できる一方、スタンダードは3kVAにとどまっている。大きくリニューアルされたのは系統連系への対応だ。NECST事業本部車載・V2H・急速充電器グループの関宏ビジネスグループ長は「車両の充放電規格と、電力系統との接続規格が整備されたことをきっかけに開発した。ほとんどが停電以外の日であり、日常使いのことも考えると系統連系タイプで利便性を向上させる必要があった」と語る。卒FITユーザー向けに推奨する放電モードが設定でき、太陽光発電、EV蓄電量、家庭での電気使用量に応じて、余剰電力をEVへ充電するのか、足りない電力をEVから給電するのかが自動で行われる。それでも宅内への給電が足りない場合は系統から家庭に電気を購入するといった具合だ。一方の停電時は「V2H自体があたかも系統の代わりとなるため、太陽光発電の電力をフルで使える状況となる」(関ビジネスグループ長)とし、太陽光発電の電力を家庭消費に回したり、EVに充電したりできるとする。もとより三菱電機においては、すでに14年に太陽光発電とEVと系統電力の3電源を利用する制御技術を世界で初めて開発。太陽光発電の状況を常時監視しながら、自動で3つの電力をバランスさせながら充放電できるため、無駄のない電気利用を実現している。通常時は6kW、停電時についても高出力の6kVAを出すが、同社では停電時に太陽光パワコンが系統代わりとなって太陽光発電をフル発電できる仕組みである。系統連系型V2Hのパイオニアでもあり、主に太陽光販売の訪販ルートやハウス系からの採用実績を積み定評がある。そうした販売店やビルダーとともに停電デモが体験できる『V2H体感店』を協業で全国に広めているところである。加えて、昨年より本格参入した東光高岳は、急速充電器のトップメーカーとして知られる。同社製品は非系統連系となるが、EVの電気を使う際に系統を切って給電する方式で、太陽光発電や系統から充電するなど利用目的のコアな部分は十分満たすもの。エネルギーソリューション事業本部パワーエレクトロニクス営業部の瀬古典之EVインフラグループマネージャーは「スモール&イージーの設計コンセプトで最小限の機能に絞り、小型で施工性を高めることを追求した」とし、出力3kWだが2分以内の短時間ならば6kW出すことができる。「グループ会社のTEPCOホームテックでは、定額利用サービスの中にオプションとして中古EVとV2Hを使った提案もある」(瀬古EVインフラグループマネージャー)とし、一部ではすでに中古EVとV2Hを組み合わせたサービスの動きもみられている。なお、V2Hを利用することでEVの電池が劣化するのではないかといった意見も散見されるが、急速充電器で現在30kWや50kW、今後は100kWになるという世界の中でV2Hは3kW程度の普通充電器と殆ど変わらない。V2H充放電による劣化はほぼないといってよい。更に1点、特筆すべきは、昨今トヨタ自動車の新型プリウスPHVがV2H対応車種に加わったことだ。新車とはなるものの、国内登録車(小型・普通車)シェアの半数近くを占めるトヨタが対応してきたというインパクトは、V2H普及のトリガーとなる可能性も秘めている。もっとも、卒FIT市場の現場サイドでは主に太陽光発電や蓄電池の訪問販売業者がけん引していくとみられるが、中古EVとV2Hのソリューションを提案するならばまずはEV事業者とのアライアンスが望ましいだろう。餅は餅屋。中古EVは自動車販売店、V2Hは訪販業者と互いのプロが説明からアフターまで行うことが理想である。とはいえ、将来的に中古EV販売事業を軸に据えようとする鼻の利いた訪販業者も一定数いる。実際、太陽光販売大手の新日本住設(三尾真一郎社長)では、1年程前から中古EVとV2Hの提案を進めているという。いずれは納整センター等を保有し、買取から販売まで一貫して手掛けるIDOMのような事業領域を目指す事業者も出てくるだろう。
古物商許可証とAA入会で中古EV販売店の仲間入り⁉
では何が必要か。簡単に明記しておくならば、主に①古物商許可証、②オークションへの入会、③自動車リサイクル法引取登録、④自動車リサイクルシステムへの事業者登録などが必要となる。廃車を取り扱わなければ③、④は不要だ。もちろん、高度な専門知識や仕入れの目利きなどが養われていることが前提としてある。「オートオークションは中古車事業者が参加して取引する中古車の卸売市場のこと。会場は200カ所規模あり、その箇所によって入会資格が変わる。年間の出品台数は約720万台あり6割以上が成約されていく」(IDOM伊能プライシングセクションSV)とする。これが、21年頃には17年発売の40kWh『日産リーフ』が補助金利用による4年保有義務の縛り期間を終え、売却や下取の増加すると期待されている。各会場で多くの中古EVが見られるかもしれない。卒FIT市場によって新車EV・中古EVが当たり前に普及し、中古EV販売まで幅を利かせたV2Hの訪販業者がどれほど溢れているか、期待は膨らむ。
※本記事は次代住宅専門誌 『月刊スマートハウス』 No.57に掲載したものより抜粋しています。
- トップ
- 速報
- テーマ
- 製品・サービス
- 行政・団体
- 地域
- データ
- オピニオン
- 記事ジャンル