太陽光発電における「安全性」研究の第一人者は消費者安全調査委員会が公表した報告書を如何に評価するのか。大量導入時代より遡ること十数年。実態調査を通し安全性を問い続けてきた産業技術総合研究所 太陽光発電研究センター システムチームの加藤和彦 上級主任研究員にその意義と今後の課題について訊いてみた。
今回の報告書は太陽光発電業界や社会に対し、どのような意義があると考えられますか。
まず世界的な脱炭素化を目指す潮流、国内では再エネの主力電源化を図っていく中で太陽光発電は重要な技術であると考えている。発表を受け事業者や設置検討者が「太陽光発電は燃えるからやめよう」等となるのは避けなければならない。どのようなモノであれ一定程度のリスクが存在するのは当然のことであり、その現実を直視し顕在化させないように対処していくことが重要だ。他方で、これまで「メンテナンスフリー」という概念が展開され、多くの研究者を含む業界人がそう捉えてきたのも事実だろう。新しいエネルギーとしてコストダウンと普及に向け尽力してきた先人達より伝統的に溺愛されてきた技術でもある。それはやや盲目的であったと反省すべきかもしれない。こうした背景から業界には「安全文化」とも言うべき土壌が十分に醸成されてこなかったと考えられる。しかしながら、当所の太陽光発電システムチーム等が実態調査を開始した06年頃より発電量の著しい低下や発火・発煙など不具合事例が散見され、他の電気設備同様に火災や感電といった事故リスクがあるということが判ってきた。今回の報告書ではその一端が体系的に纏められ、消費者を含む社会全体に共有されたことになったことから「安全性の向上」に寄与するものだと評価できる。長く安全に使いこなすにはどうすべきか、という点を改めて考え直す契機になるのではないだろうか。
「安全」という観点を再度見直すキッカケになると。発火プロセスや要因分析は妥当なものと言えますか。
今回纏められたものは、あくまで「事故データバンク」に登録された僅かな事例を分析したもの。この意味でひとつの仮説が提起されたに過ぎない。これは電気設備全般に共通していることだが、製品の火災事故は原因とみられる箇所の焼損が激しく真の原因を特定するのが難しい。1つの要因とみられる現象が、実は他の要素から連鎖したものである可能性もある。また火災にまで至らず統計に反映されないケースが存在している。これらの実態調査は進んでおらず、まだまだ情報に乏しい状況だ。より良い技術を普及させるためにも調査研究は続けていかなければならない。他方で、設置形態の違いによるリスク要因が抽出されたことは安全対策を実施していく上で有意義な知見となりうるだろう。既築に関しては予防保全の観点から定期点検により不安全な方向に振れていないかを確認する必要がある。新築は設置形態でみたときのリスク要因をはじめから回避できるようになるなど一定のヘッジに繋がる。また太陽電池モジュールに装備されているバイパス回路を、安全装置として位置付けたことは評価できる。いずれにせよリスクが認知され、より安全に対する意識が芽生えることに報告書の意義がある。
一歩前進といったところでしょうか。今後の課題について何が挙げられますか。
製品や施工品質の向上が図られていくのを前提とすれば「責任の所在」が曖昧という点が最大の課題となるだろう。というのは、住宅用太陽光発電設備の所有者には①全量売電をする「事業者」、②自家消費をする「消費者」、③余剰売電を行う「両方」という3つの立場が存在している。この違いを明確にしないままに「安全確保の義務を負う」となると「一体誰が費用を出すのか」ということになりかねない。とすると益々重要になってくるはずのメンテナンスが浸透していかないのではないかという懸念がある。現段階では明確な答えが出ていないため、今後も議論を深化させていかなければならないと考えている。
なるほど。誰がメンテを担うのかは重要ですね。それでは最後に一言お願いします。
報告書に綴られた事故原因がどうだったかは確かに重要ではあるが、人間が作るモノには必ずリスクが存在する。そして「安全」とは見えないモノ。事故が起きた時に初めて何が起こったのかが判る。また何も起きていなければ「安全だ」と思いがちだが、何もしていないからこそ事故は起こってしまう。工業製品の場合はヒトが積極的に関わり続けていかなければ安全を維持できない。太陽光発電は社会にとって善い効用をもたらす製品である。太陽光発電に関わる全ての人々が、安全品質を高めた製品やサービスの提供に向け努力し続けていく必要がある。我々、研究者もその一端を担っていかなければならない。
広く共有していきたいテーマですね。ありがとうございました。
※本記事は次代住宅専門誌 『月刊スマートハウス』 No.50に掲載したものより抜粋しています。
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