住宅用断熱材の長期的な性能低下を考慮し、建築物の省エネを設計していこうという機運が高まっている。今後、良質なストック住宅を増やそうとする中で、せっかく完成した省エネ住宅が、断熱材の性能劣化によって将来的に評価が下がってしまっては困るからだ。もちろん性能劣化は断熱材だけでなく建材全般に言えることだが、発泡プラスチック系断熱材においては、中に閉じ込めている断熱性の高いガスが長期には抜け、空気と置換することによる断熱性能の低下が避けられない。今回は、そんな発泡プラスチック系断熱材の劣化メカニズムを紐解くとともに、それを最小限に抑えるための技術的な課題について探ることにした。
発泡プラスチック系断熱材は、繊維系断熱材に比べて非常に高い断熱性能を有することは周知の通りである。繊維系では、繊維の隙間に空気を閉じ込めているのに対し、発プラ系は、断熱性能の高いガスを閉じ込めているからだ。そんな発プラ系断熱材の断熱性能(熱伝導率)は3つの要素によって決まるとされている。①固体の熱伝導、②気体の熱伝導、③輻射の3点であるが、とっつきにくい内容のため、少し嚙み砕いて説明したい。まず、熱の伝わり方である熱伝導率は、気体、液体、固体の順に大きくなる。とくに固体は物質によりけりであるが、金・銀・アルミ等の金属類は熱伝導性が高く、樹脂類は低いものとなっている。これを踏まえると、発プラ系断熱材を製造する際、①固体の熱伝導率については、できる限り熱が伝わりにくい樹脂を用いながら、如何に発泡させて固体の比率を少なくするかが重要となるのだ。無論、持ち運びや施工時に支障をきたさないよう、ある程度の強度を保ちながらバランスをとることも忘れてはならない。また発泡の状態によっては、膨らませた気泡に無数の穴が存在し、すでに脆い状態であるため、少しの衝撃で気泡がどんどん壊れてしまうケースもある。穴の少ないキレイな気泡を成形できるかが肝となるのだ。
次に、②気体の熱伝導率だが、どんな断熱ガスを採用するかが重要となってくる。これまで使用されてきた断熱ガスの変遷としては、1990年代は特定フロンであるCFCやHCFCが使用されてきたが、特定フロンは、成層圏に達しオゾン層を破壊する塩素を含有していることから全廃が既に決まっている。特定フロンの代わりとして塩素を含まない代替フロン(HFC)が一部で使用されているが、地球温暖化効果が非常に高く削減目標が設定されている。そこで、登場したのが炭化水素(HC)系の断熱ガスである。フロン系ガスに比べると断熱性能は30~50%近く劣るものの、環境性能が高く多数の断熱材メーカーが採用している状況である。そして今後の主流として注目されているのが、新発泡剤のHFOである。化学的にはフロンとなるものの、同ガスが空気中に放出されたとしても成層圏に達する前に紫外線等によってほぼ分解されるため、ノンフロンとして国が認めている。従来のフロン系ガスを用いた場合とほぼ同等の断熱性能を得られながらも、環境負荷軽減を両立できることから、一気に断熱性能を上げてきたメーカーもあるほどだ。
加えて③輻射は、熱線を通過させないように遮るための微細な気泡を如何に多くつくることができるかがポイントとなる。気泡が細かい=気泡の数が多いわけで、数が多ければ多いほど輻射による熱伝導を抑えられる。そして、ウレタンフォームやフェノールフォームにおいて気泡を微細化するためのキーとなっているのは石鹸等に使われる界面活性剤で、どんな界面活性剤を使用するかによって気泡の径が変化する。その最適化を図るのだ。①~③を簡単にまとめるならば、発プラ系断熱材は、穴の少ない無数の微細な気泡をつくって、その中に断熱ガスを閉じ込め、熱の伝わりにくさを追求し続けているのだ。
断熱ガス放散と空気流入で生じる劣化
こうして発プラ系断熱材は、繊維系断熱材よりも高い断熱性能を発揮するわけだが、一方で経年によって断熱ガスが放散して劣化していくことが明らかになっている。その発見は古く、1967年発表のフランシス・ノートンの論文で指摘されたことに始まる。国内では、2003年より本格的に同内容の研究がスタートし、長期的な断熱性能を評価する調査・検討を実施。2018年1月には、建材試験センターが旭化成建材の断熱材による初めての長期断熱性能の評価結果を公表したところである。
この旭化成建材では開発当初から、長期性能に着目して研究開発を進めてきた経緯がある。そんな同社建材生産センター材料技術室の深沢義人室長に、断熱性能劣化のメカニズムについて訊くと「ポイントは、高い断熱性能を実現するための①~③の要素のうち、経年による変化が大きい②の気体の熱伝導率で、その寄与度はおよそ60~70%を占める。つまり、気体の熱伝導率が少しでも変わってしまうと、トータルの熱伝導率に大きな影響を及ぼし、結果として劣化することになる。気体の熱伝導率を如何に上昇させないかが重要なのだ」と説明する。
では、一体どんな過程で断熱ガスが抜け空気と入れ替わってしまうのか。まずは、樹脂を膨らませて形成した気泡の膜の状態に注目すると、気泡膜が破れていないように形成することが重要であるという。「気泡の膜に穴や割れが発生していると、それを起点に閉じ込めていた断熱ガスが放散し、空気の流入も容易となる」(深沢室長)からである。気泡が互いにつながっていると、断熱ガスが自由に移動することができ、最終的に空気中に抜けて、断熱性能の低い空気が入ってくることで、断熱性能が低下してしまうわけだ。樹脂の種類や、発泡のさせ方によって穴の数や割れ方は様々で、性能低下のスピードもそれぞれである。気泡が連続せずに、穴や割れのない独立した気泡を形成することが、長期的に断熱性能を維持する要素の一つとなっている。
しかし「いくら独立した気泡で断熱ガスを閉じ込めることができても、気泡膜そのものの〝ガスバリア性〟が低いと断熱性能の低下は大きくなる」(深沢室長)という。ガスバリア性とは、断熱ガスが気泡膜を透過する性質のこと。例えば断熱ガスと気泡膜が水と水、油と油のような存在であれば互いにくっつきやすくなり、断熱ガスを空気中に逃がすキッカケをつくってしまう。さらに、気泡膜を構成する樹脂の中は細かい網目状になっているのだが、その隙間が大きいほど断熱ガスが抜けやすくなる。すなわち、気泡膜に断熱ガスがくっつきやすく、尚且つ樹脂中の網目が粗いものは、早期に断熱性能が低下しやすいということになる。逆を言えば、水と油のように反発するガス成分と樹脂成分の組み合わせであれば、気泡膜への吸着溶解を減らすことができ、同時に、隙間サイズの小さい樹脂と、分子サイズの大きい断熱ガスで構成できれば、ガスバリア性を高めることができるわけだ。ひいては、長期的に断熱性能を維持することになる。「建物は性能だけでなく長寿命という観点からも〝長期断熱性能〟が求められる社会環境にもなってきており、当初より掲げてきた開発の方向性は社会ニーズに沿うものであったと思う」(深沢室長)
なお、現在主流の炭化水素ガスは従来のフロン系ガスに比べて小さい分子であるため、比較的樹脂内の網目を抜けやすく、短期的に断熱性能が落ちてしまう傾向にある。一方、先述の新発泡剤HFOであれば、化学的にはフロンであるため、分子サイズが大きく、炭化水素系ガスに比べて抜けにくい。HFOを利用することで幾分、長期性能は担保されるかもしれない。ただ、ノートンの論文で指摘の通り、10年、20年の長期スパンになると、分子のサイズが大きいフロン系ガスであっても抜けてしまう。断熱ガスの選定はもちろんだが、ガスバリア性の高い樹脂を選定し穴のないキレイな無数の独立気泡で、気泡膜のガスバリア性が高くするなど、各要素をバランスよく開発することが性能劣化を最小限に抑える近道となりそうだ。
※本記事は次代住宅専門誌 『月刊スマートハウス』 No.48に掲載したものより抜粋しています。
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