白い手袋に丸いトーク帽。ひょっこり半身を覗かせたかと思えば、何処かのアイドルのよう少し甲高い声。肘は直角、掌を内側に向け上方を品よく指差す。
「どちらまで参りましょう」
「○○階は○○売場でございます」
「いってらっしゃいませ」と細やかな気遣い。
記憶の片隅。伝統的な所作は、笑顔を振りまきながら、手元ではガチャガチャとハンドルを操作しボタンをカチカチするというものだった。チーンッというベルと共に。
思えば、匠ともいうべき職業であった。一見すると華やかな仕事だが何度も上下運動を繰り返す。大変なサービスである。だが、時は流れ、アッという間に自動化。その存在はめっきり姿を消してしまった。令和生まれは間違いなく電子書籍か何かの資料で目撃するほかないだろう。近代的で重厚な扉の近くにいるのはガードマンか混雑時の誘導役ぐらいになった。少し寂しい気もするが、ヒトに代わり多くの建築物では心地よい音声が乗客をエスコートする世界になったのである。
「オマタセイタシマシタ」
そんなことまで再現されている。予め設計された再生音だとはいえ不思議な気分になってくる。悪くはない。
驚くことに宅内にも設置されるようになったという。今から約40年近くも昔から。専業メーカーのクマリフトは建物への過重負担を減らす油圧ダイレクト方式を採用した住宅向け小型エレベーター「KOGMA μ」を開発。次代の移動空間を世に問い導入初期の礎を築いていった。現在に至っても決して当たり前ではない設備だが在れば利便性がグッと高まるコトだろう。残念ながら子供やペットの遊具と化している場合もあるというが。

「上に参ります」
この合言葉だけはどうも変わりそうにはない。
※本記事は次代住宅専門誌 『月刊スマートハウス』 No.55に掲載したものより抜粋しています。
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