キーン。シュポ。スーッ、ハー。トントン―。どこか寂れた印象もある“ホタル族”という表現が何か真新しさを感じさせた頃。背後には緑色の冷蔵庫に炊飯器、食器棚が並ぶキッチンの狭い間隙。悪びれもなく燻らしては繰り返す。それが「カッコイイ」「オトコらしい」だの昭和の空気感はややもすれば、理解し難い光景であったかもしれない。その動作に彼は怪訝な顔もせず、正に呼吸するかのようブーンと充満した煙を吐き出すのであった。
普及当初は「排気扇」と呼ばれ映画館や病院など限られた建築物だけに存在していたとされるが、戦後の高度経済成長期、団地ブームの到来に伴い宅内への標準化が進んだ。風通しの良い木造住宅に比べ格段に気密性が高まったことが背景にある。先駆けのひとつとなったのが1958年に川北電気企業社(現:パナソニック)が開発した「公団住宅用指定換気扇」だった。肉や魚を焼いても煤けることがなく、画期的な装置として重宝されたことだろう。

環境の変化は新たなニーズを生むことになる。結露による腐敗やシックハウス症候群の解消。花粉、黄砂、PM2.5といった大気汚染対策など。外気が疎まれる。実に稀有な世界。家の性能向上や社会の発展につれ求められる機能には何処かパラドックスが潜んでいるようにもみえるが、今や循環させるだけでなく浄化させるなどスマートウェルネスの中心に位置づけられる。人びとの生活をより豊かで快適へと導く使命を負うようになったのである。
それは青白い気体に巻かれた郷愁さながらの記憶が何処かへ影を潜め、嘗ての慣習が非常識へと化すように。「もう、そんな時代じゃないみたい。健康第一ですね」と言わんばかりだ。
※本記事は次代住宅専門誌 『月刊スマートハウス』 No.52に掲載したものより抜粋しています。
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