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【特集】ゲリラ豪雨、河川の氾濫にもまけない耐水害住宅誕生

 大型台風、ゲリラ豪雨、河川の氾濫による被害が毎年のように繰り返されている。もはや地震だけが自然災害の代名詞ではなくなった。荒れ狂う水辺、過ぎ去った後の何ともいえぬ光景。汚泥にまみれ途方に暮れる人びと。安全・安心で快適であるはずの住宅は如何に在るべきなのか。一条工務店はこれら常態化しつつある惨状を回避すべく“耐水害住宅”を開発。防災科学技術研究所と共同で10月2日、世界最大級の大型降雨実験施設にて仕様の有効性等を測る公開実験を行った。研究データを整理し関連技術の普及を目指す。

水害被害の軽減プロジェクト、官民連携で始動

 茨城県つくば駅から車で約15分。国内有数の頭脳が集まるこの地に国立研究開発法人防災科学技術研究所がある。其の名の通り、ここは我が国が誇る “防災・減災”に特化した専門機関。今回のメインテーマである“水害”だけでなく地震、火山、津波など汎ゆる自然現象を扱う。正にレジリエンスの中枢に位置づけられる。さて、緑地公園のような入口から徒歩10分。奥まったところに舞台となる大型降雨実験施設が見えてきた。散水面積:最大約3,000㎡(44×72m)、降雨強度:15~300mm/hの規模・散水能力を備えた世界最大級の大型建築物だ。その姿はどこかの倉庫か工場のようである。地上から降雨ノズル(天井)までの高低差(約16m)により雨滴の自然な落下速度だけでなく「ゲリラ豪雨」の基準値となる10分当たり雨量50mm(1時間あたり300mm)、最大雨滴粒径6mmなどが再現できるようになっている。実物大の模擬実験が可能であることから土砂災害実験、災害時ドローンや自動走行運転に関する性能検証なども行われている。

 公開実験は13時から。午前中には施設の自由見学や模型による“耐水仕様” の解説が行われたが、気になるのは水槽の底は一体どのようになっているのかということ。建設された一般仕様〔A棟〕と耐水害仕様〔B棟〕の撮影にと約8m程度の足場をカンカンカンと。大きな蛇口のような青い水流ポンプを横目に順路を辿ると屋根形状に違いはあれど、素人目には違いが殆ど判らない実物大の家が2軒並んでいた。一応、靴を脱いで中に入る。内部の間取りは同一に揃えられ家具、家電、雑誌、ぬいぐるみの配置までもクローン度が高く、実況用のカメラやセンサーが至るところに設置されていたのが印象的だった。居住可能レベルの住宅がこれから浸水するのか―。勿体ないような、かなり大掛かりな実験であることを見学者の誰もが感じたことだろう。それほど本気で挑まねばならないテーマであると言えるかもしれない。圧倒される規模感。一巡する頃には報道機関だけでなくメーカー、研究者など関係者が続々と参集し始めていた。
 前置きの説明を抜きに話を進めてきたが、これは防災科学技術研究所と一条工務店の官民共同による水害被害軽減プロジェクト。先の大型台風も然り、九州北部、西日本など集中豪雨による被害が多発している現状を背景に昨年11月より計画が立ち上がった。実験区画の地盤整備、大型水槽の着工、実験棟の建設、ミニチュア水槽試験など約1年かけ入念に準備が進められてきたものである。

 定刻に近づき、お待たせ致しました― と。公開実験が遂にスタートした。司会の挨拶の後に防災科学技術研究所の林理事長は「地球温暖化の影響で極端気象が生じ、毎年のように水害被害が出ている。今回の官民共同実験を通し、水害対策の有効性、住宅リスクの明確化、標準化の指針になれば」との意義を話した。大型台風、ゲリラ豪雨、河川の氾濫にせよ床下か床上浸水かで被害の様相が変わってくるという。国土交通省の調査によると「床上」になると被害は7倍に拡大するとの試算もある。対策は急務であることが強調された。続いて、一条工務店の岩田社長が「住宅は災害が起こった際、家族の命を守るシェルターでなければならないと考えている。また、被災後の暮らしの質を如何に確保するか。喩え命が守られたとしても、家が住める状態になければ経済的、肉体・精神的な負担が生じることになる。命を守ることは勿論のこと、被災後の暮らしの質を高いレベルで守るために必要な性能を有した真の『防災住宅』を目指していきたい。今回の実験では安価で普及しやすい技術の開発を心がけた。研究の成果を広く共有することで社会に貢献していきたい」との想いを語った。過去12年間の水害被害は年平均で約3万棟。もはや地震被害よりも甚大という見解も在る。時代を捉える同社は『家は性能』という理念のもと創業以来、産学共同で多くの実験を重ね、地震、台風など日本の厳しい自然環境に打ち勝つ住まいづくりに取り組んできたという。周知の如く、太陽光の標準搭載、高断熱仕様などアッと驚かすコンセプトで業界の当たり前を塗り替えてきた。今回のテーマに関しては『超防災住宅』と称していたが、果たして、どのようなムーブメントへと繋がっていくのだろうか。

1時間300mmという極端な雨を模擬 注目の結果は如何に!?

 実験は1時間300mmという極端な雨(≒ゲリラ豪雨)を模擬し、対策の有無で木造住宅がどのような振る舞いをするのかが検証された。実験計画と概要について防災科学技術研究所の酒井室長は「浸水の許容範囲はどこにあるのか、いつ逃げればよいのか、更には、どのような対策をすべきなのか。具体的な対策を少しでも明確化するという意味で今日がスタート地点である」と評した上で「ここで得られた成果は建築業界や保険業との連携も見据えている」との構想を述べる。耐水害仕様については開発を担当した一条工務店の和木氏が「浸水・逆流・水没を防ぐという3つのポイントに着目した」と説明。建物本体だけでなくサッシ等の開口部の水密性、浸水・逆流を防ぐ特殊弁の採用。水没を回避できる位置に電気設備を設置するなど被災後もライフラインを確保できるアイデアの結晶を披露した開演からここまで約45分。オープニングはほどほどに。愈々。

 静かに降水がスタートした。その気配は当初、サーッという、降りはじめの雨だった。と同時に水流ポンプから次々と水が注ぎ込まれ水位が上昇していった。参加者は目の前の水槽に建てられた住宅が浸水していく様をただただ眺めている。見学テントには実況モニタが設置され内部の様子をリアルタイムに観察できた。浸水は防げるのだろうか―。緊張感が会場を覆う。モニタを切り替えながらの確認作業も束の間。約10分を過ぎたところで変化が見られた。一般仕様〔A棟〕の床下にうっすらと水が染み出してきたのである。一方の耐水害仕様〔B棟〕は仕掛けが作動し浸水を防いでいた。この後、A棟の床下カメラは水没のため映らなくなった。 15分・20分が経過。雨脚もザーっという音に変わり、目の前の建物に白く靄がかかっていく。室外機が沈むレベルにまで到達、玄関ドア付近…。約30分後にはA棟の部屋は見るも無残な状態になった。ソファーは浮き、洗濯機が倒れている。対するB棟は終始、不気味なほど整然を保ったままだった。内部に居れば汚水が窓の中ほどまできている? と違和感を覚えることだろう。
 
 時間にして62分。実験は終了した。水位は約1.3mにまで達し床上70cmほどの浸水レベルであった。すぐさま作業員がB棟に潜入。「内部の床下・上浸水は認められなかった」「エコキュート、床暖房、エアコン、ドアホン等の電気機器も機能している」と確認可能な範囲では無傷であることが報告された。結果を受け一条工務店の萩原H.R.D.シンガポール社長はれた」と噛みしめる。一方で「実際に起こりうる流木、車など漂流物に対しては再現できていない」「建物が耐水害仕様だからといって安全ではない。まずは逃げるのが大前提。戻ってきたときに普段の生活に戻れるかどうかがポイントだと考えている」と指摘した上で「施工品質の確保を進め、年内を目処に商品化を発表したい」との方針を明らかにした。最後に「今回の耐水害技術はハイテクなものではない。少しの工夫と努力により実現したもの。当社の標準仕様から数十万円のコストアップで済む。地震災害よりも水害の被害が増大している中、実現可能な技術として普及させていきたい」と意気込みを語った。

 会見終了後には見学者から称賛や驚嘆の感想が口々に述べられ余韻が漂っていた。それは、世界最大級の実験施設による大規模な公開実験は成功裏に幕を閉じたと同時に、水害対策の実装化が始まった瞬間でもあったのだった。

※本記事は次代住宅専門誌 『月刊スマートハウス』 No.58に掲載したものより抜粋しています。

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