ZEHを普及させる意義とは何か。本頁では、科学的に明らかとなった温暖化問題の現状から、解消に向け打ち出された政策動向を読み解く。そこから見えてくるのは2030年を待たずして標準化を図らなければ地球の未来を守れないということだった。
2050年までに平均気温1.5度上昇の可能性大 国際組織IPCC報告書で明らかに
地球温暖化が身近な存在になってきた。もはや嘗ての様に環境意識の高い一部の人達だけが声を挙げ、訴え、議論するだけのテーマではなくなった。この星に生きとし生ける者の課題として、個々人が真剣に捉え直す時代が来た。昨今、稀にみる異常気象や数十年前と比べ急激に暑くなったと感じるのは偽ではないようだ。我国のZEH政策をみていく前段として、まずは科学的に明らかとなった温暖化に関する最新レポートを紹介したい。
―人為活動は、工業化以前の水準よりも約 1℃温暖化させたと推定される。地球温暖化は、現在の度合いで続けば、2030年から2052年の間に1.5℃に達する可能性が高い―
これは世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)のもとに設立された国際組織IPCC(気候変動に関する政府間パネル)がまとめ、環境省が「政策決定者向け要約の概要」として公表した『1.5℃特別報告書』の冒頭である。18年10月1日から6日にかけ韓国・仁川で開催された第48回総会において結論付けられたもので、195ヶ国・地域に上る第一線の科学者数千名による研究結果とあって全世界に衝撃が走った。脱炭素化に向けて現在、世界150ヶ国以上が温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組み『パリ協定』に批准。「世界全体の平均気温の上昇を2℃より十分下方に抑えるとともに、1.5℃に抑える努力を追求すること、そのために、今世紀後半に人為的な温室効果ガス排出の実質ゼロ」(平成30年版『環境白書』)を目標として展開されてきたが、この奇跡的な合意でさえもグッと計画を早めなければならないことを報告書は警告する。―パリ協定の下で提出された、国別に宣言する、現在の緩和(GHG削減)の野心の成果としての世界の排出量は、2030年に52-58GtCO2eq/年になると見積もられる。これらの野心を反映した排出経路は、たとえ2030 年以降の排出削減の規模と野心の挑戦的な引き上げによって補完されたとしても、地球温暖化を1.5℃に抑制することはないであろう。オーバーシュート、及び将来の大規模な二酸化炭素除去(CDR) の導入への依存の回避は、2030 年よりも十分前に、世界全体のCO2 排出量が減少し始めることによってのみ実現できる―
つまり、気温上昇を抑えるため我々人類に残された時間は僅かしかない。予想される気候変動によるリスクは「人間が居住するほとんどの地域における極端な高温」「いくつかの地域における強い降水現象及び干ばつと降水不足」に陥る可能性がある。その影響度合いは1.5℃に抑えるのか、値の上では小さくみえる0.5℃の差、 2℃との間でも大きく異なってくるという。これらの指摘は、遠い世界の話に聞こえるかもしれない。しかしながら、地球人として、日本という国・地域に生きる一人ひとりに全く関係のない事象ではない。人生100年時代。今、この小誌を手に取る読者の方々が数十年後に健在である可能性は充分高い。未来の自分たちや子供たちのため。近い将来、笑って過去を振り返るか。後悔の念を吐露するか。今この瞬間に掛かっていると言えそうだ。では、一体何が出来るのか。その一つの解がZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及拡大ではないだろうか。
脱炭素化への出発点は今
科学的に明らかとなった現実を直視した上で、ここからは我国におけるエネルギー事情を踏まえ具体的に展開される政策動向をみていこう。近代国家の曙となった明治維新から150年。日本の一次エネ供給は薪炭から石炭、石油、原子力、再エネと世界情勢の変化を踏まえた選択を繰り返してきた。エネルギー政策の方向性を示す『エネルギー基本計画』(18年7月公表)の冒頭には「パリ協定の発効を受けた2050年を見据えた対応、より長期には化石資源枯渇に備えた超長期の対応、変化するエネルギー情勢への対応など、今一度、我が国がそのエネルギー選択を構想すべき時期に来ている」と明記され、シナリオを描くにあたり「東京電力福島第一原子力発電所事故の経験、反省と教訓を肝に銘じて取り組む」「戦後一貫したエネルギー選択の思想(=エネルギーの自立)」を前提にエネルギーミックスの実現と脱炭素化への挑戦を宣言している。世相の焦点となっていた原子力発電は依存度を可能な限り低減しつつ再稼働を維持(30年22~20%)、再エネは低コスト化、系統網の制約の克服を図り「主力電源化」(同22~24%)と位置づけた。温室効果ガス80%削減以上を目指す長期ビジョン「50年目標」達成時の電源構成等は明確化されていないが政策・外交・産業・金融などを巻き込んだ「総力戦」と強い表現で「あらゆる選択肢」を追求し脱炭素化を目指すとしている。この中で住宅・建築物に関しては「2020年までに国を含めた新築公共建築物等で、 2030年までに新築建築物の平均でZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)を実現」「2020年までにハウスメーカー等が新築する注文戸建住宅の半数以上で、2030年までに新築住宅の平均でZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の実現」との方針が改めて明示されている。背景にあるのは、先述したエネルギーミックスの実現と共に地球温暖化防止、つまりは脱炭素化にある。事実、我が国の最終エネルギー消費量は石油危機以降、全体で1.2倍に増加。特に業務・家庭部門はそれぞれ2倍に拡大するなど顕著である。この点を如何に削減させられるか。また、東日本大震災後の電力需給逼迫やエネルギー価格の不安定化などを受け、家庭部門における住宅の創・蓄・省エネ化の重要性が再認識されている。レジリエンス性をどのように高めるか。複数要素が混ざり合う形でZEH普及は叫ばれているのである。
経済産業省・環境省・国土交通省、3省連携で普及を後押し
これらの議論は何も突如として現れた訳ではない。古くは『京都議定書』(97年12月採択)から続くエネルギー政策の中で継承されてきたテーマである。およそ20年の時を経て完成されつつあるとみることもできるだろう。前回版『エネルギー基本計画』『地球温暖化対策計画』、『未来投資戦略』等にも同様の内容が明記され現在に至っている。先の『パリ協定』(16年11月批准)では「2050年までに住宅ストックの平均ゼロエミッション」と提言されていることから、ZEH化の更なる推進は必至なのである。
直近の具体的な政策動向について順を追ってみていくと15年4月、目標達成に向けたZEHの現状と課題、方向性を検討することを目的として「ZEHロードマップ検討委員会」が発足。同年12月に統一的な定義や、国、業界団体、民間事業者が連携して取り組むべき具体的施策として『ZEHロードマップ』が策定された。16年春からは補助金の要件だけでなく普及を促す目的で「自社が受注する住宅のうちZEH(Nearly ZEHを含む)が占める割合を2020年度までに50%以上とする事業目標を掲げる」企業を登録する「ZEHビルダー制度」が始まった。補助金争奪戦になるほど活況を呈し「普及元年」として一挙に注目が集まったのは記憶に新しい。その後、参画者の増加に伴い生じてきた課題の洗い出しを図るべく17年7月に「ZEHロードマップフォローアップ委員会」が発足。18年5月に『新・ZEHロードマップ』が公表され、エネルギー政策との整合性、課題の解消を踏まえ新たな定義が設けられた。このロードマップ刷新に伴い、経済産業省、環境省、国土交通省と3省が連携。それぞれ役割分担による支援事業が始まっている。今後、さらなる議論を深化させることで普及拡大策が随時投入されていくとみられる。脱炭素化に向かう世界。緩やかに流れていたゼロエネの思想。これらが重なり合い、今まさに出発点として時代が動き出している。
※本記事は月刊スマートハウス別冊 『ZEH MASTER 2018』 に掲載したものより抜粋しています。
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