動き出した卒FIT売電
2019年11月、いよいよ売電期間終了のホイッスルが鳴る。本誌では繰り返し報じてきたが、FIT卒業後の売電価格は、基本的に買電額よりも下回るため、自家消費した方が断然お得となる。しかし、今の生活パターンを維持したまま、いきなり自家消費率を高めることは簡単なことではないだろう。また、いくらお得になるとは言え、ライフスタイルを変化させてまで消費率を上げにいくことは“我慢の節約”に逆戻り。ならば無理矢理使ってしまえ! となるのは、さらに間違いである。無理に使うのなら、素直に売電する方が経済的であることは言うまでもない。 では、どの様にして向上させれば良いのか。模範解答はやはり、蓄電池や貯湯式給湯機など蓄エネルギーの要素を導入することであろう。いつもなら売電していた電力を貯めておき、必要な時に取り出す。最も効率的な方法である。これら蓄エネ機器を用いた対策については、次号より連載していく。今回、本特集で取り上げるのは、もう一つの解答、“電力預かりサービス”についてである。電力会社が卒FIT太陽光向けに打ち出した同プランを活用すれば、先のデバイスを用いずとも、擬似的に自家消費を高められるのである。 そこで卒FIT市場キックオフ直前の連載企画第一弾となる今回は、FIT卒業後の太陽光発電の経済性を再確認するとともに、様々な企業が打ち出した新サービスの実力に迫る。
卒業後の売電価格8円前後/kWhで出揃う
卒FITユーザーに対する買取プランが出揃いつつある。6月末をもって大手電力会社は全社、プランを発表したほか、大手ガス会社をはじめ電力事業を手掛ける様々な企業が買取を表明している。各社、独自のプランを用意しているが、中でもハウスメーカーはどこも、高い水準の買取価格を提示。さらにNTTスマイルエナジーとパナソニックライフソリューションズ社が協同で発表したプランも最大16円/kWhという高額な買取プランとなっている。買取単価が高ければ高いほど、売り先の候補として上がることだろう。しかしこういったプランは誰もが利用できるものではない。先着や期間限定であったり、設備機器購入や他のサービスとのセットであるケースなど、相応の条件が設けられている。そこで本特集では、利用ハードルが低く、お得に余剰電力を活用できる“電力預かりサービス”を中心にFIT卒業後の太陽光発電の経済性を紐解いていく。その前に、まずは買取制度を振り返るとともに、卒FIT太陽光の経済性を今一度確認しておきたい。そもそも太陽光発電の売電が本格的に始まったのは、09年11月に余剰電力買取制度(現・FIT制度)が施行されたことがキッカケである。同制度により、電力会社は10年間、固定価格で太陽光発電の電力を買取ることが義務付けられた。さらに太陽光で作り出す電力は“再生可能エネルギー”として付加価値が付与され、当時は48円/kWhで一般的な電力料金24円/kWhの倍額で売電できるものとなった。そして19年11月より、約束された売電期間が満了を迎える。初年度の総数は約53万件。以降も年度毎に20万件以上の太陽光ユーザーがFITを卒業していく。期間が過ぎれば、電力会社に買取義務が無くなるため、その後の売電は可能なのか、可能であれば誰が、いくらで買い取ってくれるのか等が問題視されていた。所謂、2019年問題である。とは言え、この不安は既に払拭されており、卒FIT後の売電については、太陽光ユーザー(売り主)が、自由に売り先を選ぶことができる“相対・自由契約”となった。先述の通り、買い手も大手電力をはじめ、ガス会社、ハウスメーカーなど様々な企業が名乗りを挙げている。先立って電力購入を宣言している主な企業は本特集末尾に一覧で掲載した。各社のプランを押並べると、概ね8円前後/kWhがベースであり、条件によってはさらに高値で売電できるプランもある。卒FITユーザーは自由契約であるため、この中から選ぶことができる。では、8円/kWhでの経済性はどれほどなのか。劣化率等を考慮していない簡単な試算ではあるが、自家消費分も加味した経済メリットは1kWあたりで年間1.5万円程度となる。48円/kWhで売っていた頃は同4.9万円程度と想定されることから、約3.4万円/kWも減少する。ただここで留意しておきたいのは、太陽光発電はおよそ10年前後で初期費用を回収できることから、決して損するというわけではない。回収後の売電は8円/kWhでもそれ以下であっても、経済メリットはしっかりと享受できる。ここで強調したいのは、自家消費率を高めることで、このメリットをさらに拡大させられるということ。極端ではあるが、100%自家消費できた場合には、kWあたり約2.9万円/年となり、自家消費向上策を講じない場合よりも、同1.3万円程度上昇させることができる。繰り返しとなるが、卒FIT後は余った電力をいかに自家消費に回すことができるかが、経済性のカギを握っているのである。
擬似的に自家消費できる電力預かりサービス登場
では、如何にして自家消費率を高めれば良いのか。向上策としては、エコキュートやハイブリッド給湯機などの貯湯式給湯機や蓄電池、EVなどによる蓄エネが挙げられる。他にも、高断熱仕様と空調による宅内の保温・保冷も一手だろう。しかし、これらの方法は何も無い状態からでは、全て追加投資を要する。もちろん、給湯機の買い替え時期が迫っている、非常時に備えたいなどのニーズが合わされば、積極的に提案できるが、単純に自家消費率を向上させる=経済メリットだけを目的とする場合には、少しばかりハードルが高いのは否めない。これに対し、大手電力会社が新たに用意した電力預かりサービスは、追加の設備投資不要で自家消費率を高めることができるプランとなっている。具体的には、余った電力を一旦、電力会社に預け、別の時間帯で使用したことにするというもの。つまり、余った電気を擬似的に自家消費に回してくれるというわけだ。さらに時間帯別料金など単価が異なる場合には、単価が高い分から順に差し引いていく仕組みとなっているケースが多い。殆どの電力会社が同じ方向性のサービスを用意しているが、差し引く分の取扱いは、実際の買電と相殺するもの、規定額で割引くなど、内容はそれぞれ微妙に異なる。預かった電力を買電量と相対で相殺するプランを用意した東北電力は「余剰電力が多い、あるいは殆ど余らないご家庭など使用形態は千差万別。また蓄電池を活用したいが機器代の負担が大きく導入に踏み切れないケースなど、様々なニーズがある中、機器の購入費不要であたかも蓄電池を導入したものと同じ様になるプランを用意した。お客様の消費パターンに応じて提案していく」(広報部)とする。既に様々な企業がプランを発表しているが、同サービスを手掛けるのは、大手電力会社のみとなっている(7月2日時点)。これについて、いち早く同サービスを発表した中部電力の販売カンパニー事業戦略室事業開発グループ 伊藤健太主任は「当社プランでは、余剰電力の量を、電気契約の時間帯別の使用量に割り振って、時間帯ごとに割引単価を乗じて割引額を算出する。余剰電力量、電気契約の時間帯別の使用量はスマートメーターがあれば算出可能であり、算出した割引額を、電気料金に充当する料金計算の仕組みを構築すれば運用できる。料金システムによって難易度は異なるが、仕組み自体はそこまで複雑ではない」と説明する。今後は電力会社以外にも同様のサービスが打ち出される可能性もありそうだ。
自家消費促す蓄エネリースも用意
追加費用無しで自家消費率を高められる電力預かりサービスは、まさに願ったり叶ったりのプランと言えそうだが、もちろん同サービスも万能ではない。自家消費したとみなすも、実際の買電額と同等ではなかったり、月々に預けられる電力量に上限が設けられているケース、プラン利用料を要するものなど、リアルな自家消費と比べ、少しばかり経済メリットは薄くなってしまう。電力の使用状況にもよるが、あくまでも通常の買取プランよりはお得になるということにとどまるのである。となれば、できる限り実際に自家消費した方がお得となるが、自家消費策を講じるとなると、やはり機器に要する追加投資がネックとなる。そこで多くの電力会社は蓄エネ機器のリースを用意。従来よりエコキュートのリースは展開していたが、各社新たに蓄電池にも対応していく構えだ。言わずもがな、リースにも費用を要するが、初期投資が不要となるため、導入ハードルを低減できる。中でも積極的な展開を図っているのが、東京電力である。既にグループ会社のTEPCOホームテックがスマエネ機器の定額利用サービス『エネカリ』を提供しており、住宅事業者や機器販売店を通じ、現在進行形で事業を拡大させているところだ。『エネカリ』では、5月には蓄電池のリースに対応し、さらに今後も「EVや充電器のリース対応も検討しているところ」(岩崎辰之社長)とラインナップを拡充させる予定である。もちろん、他の電力会社も積極的な姿勢を見せており、関西電力をはじめ、東北・四国電力もエコキュートだけでなく蓄電池のリースを用意し、同様の方向性で着々と準備を進めている。
自家消費から地産地消へVPPの構築にも乗り出す
卒FIT太陽光の電力を効率良く活用する方法として、自家消費が筆頭に挙がるわけだが、一個人ではなく、一区画、一地域とマクロ的に捉えることができれば、余った電力を他者とリアルタイムで相互融通するなど、活用方法はより拡がりをみせる。このように電力の需要側でも需給調整を行えるシステムはVPP(Virtual Power Plant)と呼ばれている。国はこの次世代インフラ実現に向け、産官学連携で大規模な実証プロジェクトを進めており、同事業には関西電力や東京電力等が参画している。このほか中部電力では、供給側(電力会社など)の要請に応じ、需要側(一般家庭など)が対応することで対価を得られるデマンドレスポンス(DR)を既にサービス化(No.52詳報)しているが、東北電力もこのほど家庭向けの参加型VPP実証プロジェクトの実施を発表。同社会員向けに最大100名を募集し、エコキュートや蓄電池を活用したDRに取り組む。協力者には最大1万ポイントを還元する。また中国電力も卒FITを受け、4月より日本アイ・ビー・エムと協同で、ユーザー間で電力を融通するシステムの実証試験を開始。太陽光ユーザーと購入希望者のマッチングや模擬的な電力の取引を行い、ブロックチェーン技術の適応性や新たなサービスの成立性を検証している。電力会社以外にも、積水化学工業が実証を進めるほか、TOKAIホールディングス等も検討しているところである。積水化学工業では、2020年度までに同社OB宅に設置された蓄電池を活用したVPPを構築し、調整電力としての対価を施主に還元するサービス実現を目指している。余剰電力の新たな買取の仕組み、VPPへの挑戦など卒FITユーザー出現を契機に、電力システム改革の一端が垣間見え始めた。
※本記事は次代住宅専門誌 『月刊スマートハウス』 No.54に掲載したものより抜粋しています。
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